このシリーズの初回はこっちだ。
今、俺はレジの前で並んでいる。
先客が2人いる。小綺麗な格好をしたご婦人とベンゾーだ。
まずは先頭のご婦人、少しもたついている。
最近では、レジのタッチパネルで支払い確認のため、『同意』を求められる一部の商品やサービスがある。
そして画面に表示される”は い”や”yes”をタッチする仕組みになっている。
公共料金の支払いに来ているのだろうか。その画面が表示され、少し戸惑っている様子だった。
その同意をする画面をタッチしているつもりなんだろうけど、画面が全く反応してくれない。
指圧が弱いのか、指紋がないのかどうか分からないけど、うんともすんともレジは反応しない。
確かにそのご婦人の後ろ姿は体の線が細く、声も今にも切れそうな糸のような声だ。しかもよく見るとコンビニなんて来たこともないような清楚な身なりをしていらっしゃった。
まるで”はじめてのおつかい – ご婦人編 – ”そのものだ。
ご主人に先立たれ、本当は息子が行って支払うべきもんなんだろうけど、その息子が引きこもりで家から出ようとしない。
その息子に頼もうとするもんなら、暴れてもう手が付けられない。
泣く泣く、そのご婦人がコンビニに来たのかもしれない…と勝手な想像を俺は頭の中で繰り広げ、そのレジでの顛末を見守った。
ベンゾーが少しイラついている様に見えた。足をコツコツしている。ベンゾーのくせに気が短いのか?
「まぁ、ゆっくり見守ろうじゃないか、ベンゾー」
俺は人生の先輩である貫録を醸し出していた。
と、その時レジでの様子が動いた。
妙齢ねぇさん店員がレジ台から身を乗り出し…
👱🏽:私がタッチしてもいいですか?
🧓🏻:は、はひぃ…す、すみません。。
妙齢ねぇさん店員が画面をタッチしようとしたその時!、乗り出した身体がレジ横のライターをなぎ倒し、レジ下に無残にも落ちていった。
わ、わぁぁ…さらに細く切れそうなか細い声で、ご婦人が慌てふためく。
こうして文字に起こすと大変なことが起きたように感じるが、よく考えてみてくれ。日常ではよくある光景だ。
しかし、そのご婦人にはそれが非日常的な光景に見えたに違いない。棒立ち状態でその場で固まっている。
ここでベンゾーの登場だ。
慌てる様子もなく俺の方にケツを向け、落ちたライターをそそくさと拾っている。
なんださっきはイラついていたけど、別に普通の好青年じゃないか。見直したぜベンゾー。だけどな、ズボンのケツのところがちょっと破れていたぞ。パンツの色は赤だったな。闘魂かな。アントニオベンゾーかな?
それでもまだご婦人、つっ立ったままだ。
続く…。
◆
店員さんが代理で同意の画面をタッチする際、ご婦人の了解を得てタッチしていました。
念のため。